PTSD/複雑性PTSD

トラウマ・PTSD治療法【EMDR】

2021年12月08日

 


1990年代にfMRIが登場して以降、脳神経科学研究が劇的に進み、トラウマの治療法は大きく前進しました。

現在では、トラウマの治療には、医学的エビデンスが豊富な、実績の積みあがったさまざまな心理療法や技法が用意されています。

その中の一つに、EMDRという、とても効果的なトラウマ治療の方法があります。
そして、さまざまな心理療法がそうであったように、より効果的で安全性に富み、より使いやすいものを求めて、各流派に分かれ発達してきています。

今回は、その中でも私が実際に用いて効果を実感している「つらいトラウマ記憶を無理に想起しなくても、その記憶を再処理することが可能な、第二世代のEMDR」についてお話しします。

 

1.EMDRとは

EMDRとは、眼球運動による脱感作および再処理法(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)というPTSDの治療法です。
現在ではそれ以外にも、恐怖症・うつ病・パニック障害・摂食障害・不安障害といった疾患の克服や、ストレスの低減・パフォーマンスの向上などにも有効とされています。

 

1)フランシーン・シャピロの発見

1989年にアメリカのフランシーン・シャピロ博士によって発表・紹介されました。
その数年前、乳がんの告知を受けた彼女は、公園を散歩していたときに、心が急にスーッと楽になるのを感じました。
驚いた彼女は、振り返って内観してみたところ、目を左右に素早く動かしながら歩いていたことに気づきます。
すごい発見をしたのかもしれないと考えた彼女は、周囲に「嫌なことを思い出して目を動かしてみて」と頼みました。
すると、彼らの不快な気分も軽減することがわかり、以来、彼女はこれらの体験を、体系的な治療法へと確立させていきました。

2)EMDR第二世代

さまざまな心理療法がそうであるように、EMDRも、より効果的で安全性に富み、より使いやすいものを求めて、各流派に分かれて発達していきました。
EMDRの通常のプロトコルをかなり省略し、実際の再処理の部分だけに直接アプローチするという方法になっています。

注目されているものには以下のようなものがあります。

①ブレイン・スポッティング(BSP)
・デビッド・グランド博士による

・視点と記憶には深い関係があることから、眼球を固定して行う処理法。

 一点に焦点を定めることで脳の非言語領域に働きかけ、記憶の再処理ができる、というもの。

②フラッシュ・テクニック(FT)
・フィリップ・マンスフィールドによる

・「EMDRのフェーズ2=安全構築の準備段階」をするだけで、最後まで行わなくてもトラウマ処理が済んでしまうことがとても多くあったため、そこから単独に作り上げられた技法。

③アタッチメント・フォーカスト・EMDR
・ローレル・パーネルによる

・愛着に着目したもの

④手動処理

・杉山登志郎医師による

・一般の精神科外来で実施が可能なEMDRを基盤にした、簡易型トラウマ処理

・トラウマ記憶の言語化は危険と考えるため、記憶の想起をさせずに、交互刺激と呼吸法を用いて短時間で行える方法

 

 

2.当ルームで実際に行っている「EMDR2」とは

当ルームで導入しているのは、上記の②FTと③手動処理を基礎とした、第二世代のEMDR「EMDR2」です。
単回性または複雑性のトラウマを抱えたPTSDやアダルトチルドレンの方のうち、必要を感じて同意を得られたり希望があったりした場合に、以下のような順番で導入しています。


*信頼関係を築く

*心理教育により、トラウマやPTSD・EMDR2について理解を得た上で、治療同盟を組む

*リソースを把握し、自分の中にしっかりと根付かせる

*呼吸法・両側性刺激・眼球運動の練習と実施
 (この段階のみ、週1ペースを数回)

*確認とフィードバック


導入時には、誰よりもまず初めに、私自身を「高所恐怖症の克服を目標」の実験台として取り組みました。
私が居住している部屋はたかだか7階なのですが、ベランダに立っただけでも足の裏や下腹あたりがゾワゾワぞくぞくしてしまい、そのまま立位を維持することは困難な程度の高所恐怖症でした。

変化は、5回のEMDR2後に起きました。
あんなにしつこくて不快だったゾワゾワぞくぞく感が消え、ベランダで少し背伸びをしながら下をのぞき込む姿勢になる布団干しも、今では難なくこなせています。

そして、先週。
地方に住む友人が遊びに来て都内のホテルに泊まったのですが、その37階の部屋からの眺望を怖いとも思わずに、心ゆくまで堪能することができていました。
EMDR2の凄さを改めて実感した日となりました。


クライエントさんについても、従来の心理療法に比べては格段の速さと安全さを実感しています。
「再処理されたトラウマ記憶」といっても、想起される記憶そのものは同じままです。
ただし、記憶との距離感ができたというか、過覚醒を引き起こさずにそのトラウマ記憶を想起できるように変化しています。
すごいことだなと感じています。

ただし、実施するにあたっては、互いの信頼関係とリソースの準備が欠かせません。
また、覚醒度変化などの副作用的な経過と、効果の把握のために、実施の間の数回は必ず週1ペースが必要になります。
このように、何の準備もなくできるものでも、好きなペースでできるものでもありません。

けれど、フラッシュバックやつらい過覚醒症状を伴うようなトラウマ記憶を手放せた状態なら、生きづらさの根源である、否定的な自己概念や受けとめ方の克服も格段に楽になるのではないでしょうか。
そのように取り組んでいけるのは大きなメリットですから、選択肢の1つにしていただけたらと思っています。


一人でも多くの方が「自分の人生」を楽に、楽しく幸せに生きていけますように。
一人でも多くの方の、心からの笑顔を見たいと願っています❀

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