自分で認知行動療法④ ~『認知の歪み』を把握しよう~ #11
実際に『思考記録』を書いてみると、状況・身体・行動・気分・思考の5領域がそれぞれ影響し合っているのを実感できたのではないかと思います。
そこで今回からは、認知行動療法の核心部分、気分と思考に絞って進めていきます。
1.気分を客観的に測定する:『スケーリング』
気分とは、案外と気づきにくいものです。☞#2:悲しくないのに涙が出てきてしまう人へ。『感情(気分)』について
ですから、『気分表』と照らし合わせながら自分の気分をつかむ訓練をすることが、認知行動療法ではまず大切です。
そうやって自分の気分がつかめるようになってきたら、次はその強さを測ることを行います。
1)スケーリングのメリット
①気分の強さを繰り返し測ることで、気分の「揺れ」が見えるようになる
②自分はどのような状況のときに、あるいはどんな考えを抱いたときに気分が変化するのか、を知る手掛かりになる
③認知行動療法シート(7コラム)を完成させたとき、そのやり方の有効性を判断できる
④『スケーリング』自体が持つ意味がある。☞#9:『生活リズム表』でセルフモニタリング
2)スケーリング方法
①各気分に焦点を当て、それぞれ1つの気分について、0~100%で評価する
※ここで重要なのが、「それぞれ1つの」という部分です。
下の写真を見てください。
彼女が友達との会話中に感じた「焦り」は、どのくらいだったのでしょう?
丁寧に尋ねると、「焦りは70%くらいだった」と答えてくれました。
次の「情けなさ」は「90%」でした。
このように、それぞれ1つの気分にフォーカスして、0~100%で評価していきます。
よくある円グラフのように「全てを足して100%」ではないことを理解してくださいね。
2.自動思考を掘り下げる
『自動思考』とは、頭の中に自然に浮かんでくる考えのことです。
その自然に浮かんだ思考を意識的に掘り下げていくことで『ホットな思考』を見つけます。
1)思考掘り下げのメリット
①隠れている『ホットな思考』を見つけることができる
②ホットな思考は陥りやすい思考パターン『認知の歪み』を構成しているため、それに気づくことが適切な変化の糸口となる
2)思考掘り下げの方法
①ある思考を記入したら、そこから下向きに矢印↓を引いて、「だから?」「ということは?」の答を続けて書いていく。
②自分自身に以下のような質問をして、出てきた答えを記入する。
・それは今の自分または将来の自分にとって、どんな意味を持つの?
・もしそうなったとして、最悪どうなると思うの?
・それは自分が、あるいは他人がどうだということ? 等々…
③スケーリングで一番強かった気分を伴っている、最も強いホットな思考を選んで〇で囲む。
3.『認知の歪み』を把握する
上のノートのように、ある状況において生じた気分と思考について記した思考記録を『3コラム』といいます。
この3コラムに日々取り組んでいると、やがて何度も同じ『ホットな思考』が出てくることに気づきます。
自分に特有の「思考のクセ」が存在していることに気づくのです。
この「思考のクセ」を、認知行動療法では『認知の歪み』といっています。
歪んだ認知があるために、人はそれぞれ違う受けとめ方をして、それによりそれぞれのストレスを抱え込んでしまいます。
ですから、その歪みを把握して修正することができれば、ストレスは軽減し、人生は生きやすいものへと変容していくのです。
【認知の歪み】
①全か無か思考(100か0か思考、白黒思考、二分法思考)
良いか悪いか、できたかできなかったか、好きか嫌いか、正しいか間違いかなど、二つのどちらかでジャッジしてしまう思考。
中間の、あいまいな、グレーゾーンの存在を認めない。
例)
・1つでも失敗したら、全部失敗したのと同じ。だから1つのミスも許されない
※愛着障害、アダルトチルドレン、境界性パーソナリティー障害の人たちに特徴的な「生きづらさ」の根本原因ともいえる、両極端な思考
②個人化(自責思考または責任転嫁)
悪いことや上手くいかないことが起きたとき、すべて「自分の責任だ」とか「自分が悪かったんだ」と考えてしまう。
たとえそれが、他者の責任であったり、誰のせいでもない偶然による事故など、自分ではコントロールできない出来事であったとしても。
あるいは逆に、全てを「特定の個人のせいだ」と考える場合もある。
例)
・チームの失敗は、すべて私の注意が足りなかったせいだ
・チームの失敗は私のせいじゃない。B男が全部悪いんだ
③破局的認知
根拠もないのに、「将来、最悪の結果が訪れるにちがいない」と確信してしまう。
不安障害に多い。
例)
・昇進したら、きっとトラブルに巻き込まれて、そのうち降格されてしまうにちがいない
・帰宅してしっかり手を洗わないと、絶対に怖い感染症にかかって死んでしまう
④感情的決めつけ
事実を無視して、そのときの感情のままに決めつけてしまうこと。
例)
・不安なとき:数学で複雑な問題を解いたのに、「悪い結果にちがいない」と推測する
・寂しいとき:用事があるからと断られたのに、「自分が嫌われているからだ」と思い込む
・イライラするとき:「B男がダメな奴だからだ」と決めつける
⑤べき思考
自分や他人や世界は「こうあるべきだ」と思っている。
頑なな信念や、厳格なルール的思考。
まじめで几帳面な人や、うつ病の人に多い。
⑥心のフィルター(選択的抽象化)
ものごとの全体を見ることができず、細かいごく一部に注意を集中させて、こだわり続けてしまう。
良い面を無視して、悪い面ばかりを見てマイナスに考えてしまう。
例)
・先生やクラスのみんなから褒められたのに、たった一人に否定されたことで、「やっぱり自分はダメなんだ」と思い込む
・今つらいために過去の良かったことを忘れて、「人生にいいことなんて一つもない」と考え、悪いことばかり思い出す
⑦過度の一般化
わずかな出来事から、全てがそうであると一般化しすぎてしまう。
例)
・大学受験で1校に落ちたとき、「この先、何校受けたって落ちるにちがいない」と考える
⑧過大評価と過小評価
さほど変わらない状況なのに、根拠なく高く評価したり、低く評価したりしてしまう。
他人には寛容なのに、自分は極端に厳しく評価する。
例)
・自分が失敗すると「やっぱり私はダメなんだ」と思い、同じことを他人がすると「仕方ないよ。大したことない」と慰める
⑨ラベリング(レッテル貼り)
多様な側面を大胆に単純化し、レッテルを張ること。
ネガティブなイメージを固定化してしまう。
例)
・私は「ダメな母親」だ
・B男は「仕事ができないヤツ」だ
・夫は「人の話が聞けない人」だから、話してもムダだ
と決めつける
⑩結論への飛躍(推論の飛躍、恣意的推論)
ある状況下で、適切な論理展開をせずに、ネガティブな結論に一気にジャンプしてしまう。
a 読心的推論
他者に対する認知の歪み。
「相手は〇〇と考えているはずだ」と決めつける。
例)
・B男は私のことを「変なヤツだ」と考えているはずだ
b 予言的推論
将来に対する認知の歪み。
「将来は必ず〇〇が起こるに違いない」と決めつける。
例)
・私は一生不幸なんだ。悪いことばかり起こるにちがいない
いかがでしたか?
「当てはまる!」と感じたものはありましたか。
もしあったなら、その番号に〇をつけてみてください。
一つだけではないかもしれません。
カウンセリング場面では、全てに〇がついたという方も多くいらっしゃいます。
これはもちろん、悪いこと、ダメなことではありません。
それだけ多くの苦しみをもたらす認知を抱えながら生きてきたということにほかならないのですから、とても生きづらかったと思うのです。
ですから、「よくがんばって生きてきたよね」と自分自身を心から労い、褒めてあげてほしいと思います。
あなたは人知れず、本当によくがんばってきたんですから。
一人でも多くの方が「生きづらさ」を手放して、その人生を楽に楽しく生きていけるようになりますように。
一人でも多くの方の 心からの笑顔が見たい、と願っています❀
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