自分で認知行動療法⑤(最終回) ~認知の歪みを手放して、楽に生きよう~ #12
何度も思考記録に取り組むことで、自分の認知の歪みを把握できるようになってきます。
そこで今回は、「事実」にこだわって視点を変えて考えてみることにより、認知の歪みを手放していく方法を習得していただきたいと考えています。
前回までの思考記録表は、状況・気分・自動思考を記した『3コラム』でしたが、
今回はこれから説明していく根拠・反証・適応的思考・気分②が加わるため、以下のような『7コラム』に変わります。
1.『根拠』を見極める
1)根拠とは
①【ホットな思考】の客観的な理由です。
その最も強い思考を裏づける、客観的な事実のことをいいます。
あくまでも「事実」であって、解釈や想像や意見ではありません。
2)具体例
「Aさんが、私をじっと見つめていた」というのは『事実』ですが、
「Aさんは、私のことを変だと思って見つめていた」というのは『想像』でしかありません。
「あんたは変だよ」と口に出して言われたのでないならば、それは事実ではないのです。
黙って見つめられただけなら、相手の考えていることがわかったように思えても、それはただの思い込みであって、決して事実ではありません。
このように、人は「思い込み」で自分の思考を正しいと決めつけてしまうことが多くあります。
ですから、怒りや悲しみのようなマイナスの感情に支配されたときには、
「この感情を生み出している、この思考を裏づける根拠はどこにあるんだろう?」
「自分の感じたことや考えは、本当に正しいのかな?」
などと、客観的に評価してみることが大切です。
自分の意見ばかりにしがみつくのではなく、『客観的事実』や『経験』を見極めることが必要です。
つまり、『自分の考えや思い込み』と実際の『事実』を客観的に見て区別すること。
思い込みと事実の分離こそが重要なカギとなるのですす。
2.『反証』を探す
1)反証とは
①【ホットな思考】と矛盾する事実であり、「その強い思考は正しくない」と否定する、反対の証拠です。
②視点を変えることで得られる新しい情報や、見逃していた良い事実です。
この情報が加わるだけでものの見方が180度変わりますから、不快な気分もがらりと変化していきます。
2)反証を見つけ出す手がかり
自分に以下の視点を切り替える質問をしていきます。
①もし家族や親友がそんな考えをもっていたら、なんて言う?
②自分がその考えをもっていると知ったとき、家族や親友は何と言ったの?
③以前、同じような経験をしたとき、どんなふうに対処したかな? 等々…
人は、悪い方向に考えているときは大抵、それを裏づけてあげるような理由ばかりに目を奪われて、堂々巡りをしてしまいます。
そして、その理由は歪んだ認知のフィルターを通ってきていますから、ほとんどが事実ではない強烈なマイナスの『思い込み』となってしまっているのです。
ですから、ここで上記のような質問を自分に投げてみることにより、強制的に視点の切り替えが行えます。
それにより、見落としていたプラスの『事実』=偏った考え方からバランスのとれた思考へ変化させるための種 を見つけ出すことができるようになるのです。
3.『適応的思考』を獲得する
1)適応的思考とは
①根拠と反証の両方をじっくり眺めているうちに、自然に浮かんできた新たな考えのことをいいます。
浮かんでこないときには、根拠と反証それぞれを要約して、「でも・だが・そして」で繋いでみましょう。
②単なるポジティブシンキングではありません。
単なるポジティブシンキング:友達は私を必要だと言ってくれないけれど、どうってことないさ!
適応的思考:友達は私を必要だと言わないけれど、私と一緒に遊ぶことは楽しんでくれている。
このように適応的思考を獲得することは、気分が高ぶっているときにはとても難しい作業ですが、そうしたときこそ必要なスキルです。
自分自身を苦しめている歪んだ認知から生じる『思い込み』を手放して、適応的思考に変化させることは、自分自身を解放し、その先の人生を生きやすく豊かなものにしてくれます。
ですから、諦めずに何度でも練習を重ねて、習得してほしいと思います。
4.『今の気分』をスケーリングしてみる
1)方法
初めに挙げた『気分①』について、その変化を測り『気分②』へ書き込みます。
2)気分の変化の意味
無理のない適応的思考が得られていれば、気分の度合いは確実に下がっています。
もしも下がらない場合は、その適応的思考がハードルの高い理想論的な考えであったり、自分以外の他者の意見の反映だったりすることが考えられます。
そんなときには「いい課題が手に入った」ととらえ、再度取り組んで点検し直してみてくださいね。
自分にとって相応しい、適応的な思考は、練習を重ねることで必ず習得できるのですから。
5.新しい『信念』を持とう
思い込みの下に『歪んだ認知』があることは実感いただけたと思うのですが、
実はその歪んだ認知のさらに下に、『絶対的信念=スキーマ』といわれるものがあります。
認知の一番深いところに隠れて存在しています。
認知を図式化すると、次のようになっています。
自動思考
▲
歪んだ認知
▲
絶対的信念
絶対的信念とは、自分や他人や世界についての心の本質的欲求です。
生きづらさを感じている人は常に、評価や条件を気にしたり、強い期待を抱いたりしていて、
それにより「自分を追い込んだり苦しめたりするような、パターン化された決まった考え方」をしてしまうのです。
具体的には、以下のとおりです。
1)他人から:認められたい、愛されたい、受け入れられたい、褒められたい、大事にされたい、信じてほしい
2)他人が、世界が:自分の思い通りであってほしい
このような絶対的信念は、子ども時代から培われています。
子どもの頃の継続的な体験や心の傷が固定化させ、自分を守るための「真実」になっていきます。
そして悲しいかな、自分を守ってくれていたはずの信念のほとんどは、やがて無意識に自分を苦しめてしまうのです。
そんなことが往々にして起こっています。
ここまで来て、ようやく私たち(クライエントとカウンセラー)は、最終段階の『新しい絶対的信念』の構築を目指します。
他人の評価に惑わされずに、「自分自身がどうしたいか。どうあればいいのか」を検討していくのです。
これも以下に挙げておきますね。
1)他人の評価はどうあれ、無条件に、自分を:
認めたい、愛したい、受け入れたい、好きになりたい、大事にしたい、信じたい
2)他人の評価はどうあれ、自分はどうあれ、無条件に、
他人を、世界を:認めたい、愛したい、受け入れたい、褒めたい、大事にしたい、信じたい
他人に、世界に:優しくしたい
いかがでしたか。
どの書籍も講師も、
「変化には、長い時間がかかる。
新しい信念を確信できるまでには時間をかけてたくさんの根拠を集める必要がある」
と言っています。
たしかに、「楽になれた」「感情に振り回されて疲弊することがなくなり、生きやすくなった」と言って終結を迎えたクライエントさん達には、克服を諦めない強い意志と挑戦があったからこそと実感しています。
不安をはじめとした負の感情を伴う出来事と向き合い続けるのは、容易なことではありません。
それまでの人生の中で長い年月をかけて培ってきた『認知の歪み』を変化させるためには、
向き合い続ける精神力と時間を必要とする苦しい作業であることも、想像に難くないでしょう。
それでも、諦めず、何度も何度も取り組んだ人たちが、笑顔で自分の新たな人生をつかみとっていきました。
ですから、もしも「今のつらさを克服したい。人生をもっと楽に生きたい」と思っているなら、
この認知行動療法をぜひ試してみてほしいと思っています。
5回にわたりお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
心から感謝しています。
一人でも多くの人が、自分の人生を楽に、楽しく幸せに生きていけますように。
一人でも多くの人の、心からの笑顔を見たいと願っています❀
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