自分で認知行動療法③ ~『思考記録表』でセルフモニタリング~ #10
1.5つの領域
前回初めにお話しした通り、
うつ病の症状は、次の4つの領域に分けることができます。
①気分:抑うつ、悲哀、不安、焦燥、怒り、イライラ、億劫感
②行動:興味・集中力・意欲・気力を失いうため、動くことが苦痛で何もできない
③思考:些細なことへのこだわり、悲観的な考え、自責の念、希死念慮
④身体:倦怠感、易疲労性、不眠、食欲低下、性欲減退、頭痛、口渇、動悸、吐き気
そして私たちが何かを体験し、その気分が動いたときにも、これら4つの領域が、ある「状況」のもと互いに影響を及ぼし合っています。
ですから、自分が何らかの気分を体験しているときに、これらの各領域がどのように影響し合って、どのような反応をしているのかを把握することはとても重要です。
その時とった行動によって、考え方や感じ方は違います。
その感じ方により、身体の反応も変わります。
考え方が変われば、行動や気分もまた変わり、環境や人間関係まで変化させるかもしれません。
ですから、この「状況」を含めた5領域の関係性が理解できるようになったとき、絡まった問題は確実に整理されていきます。
どこから手を付けていいのかさえもわからなかった問題が理解できて、解決の糸口だって見つけられるようになるのです。
2.『思考記録』をつけてみよう
①セルフモニタリング
自分の問題を理解するために、認知行動療法では『思考記録表』を書いていきます。
自分は、どういう状況に置かれたときに、何を考え、どんな気分になったのか?
身体はどこが変化したか?
それで自分はどう振る舞ったか。何をしたのか?
自分の問題を理解するために、自分の心や身体と向き合って、客観的に観察して記録します。
セルフモニタリングを始めるのです。
②具体例
具体的にイメージできるように、
『認知(ものの考え方や受けとり方)の違いの具体例』#8-3で登場した Aさんを例にして、
あの朝の彼の状態を『思考記録表』に準じて記してみます。
ーー * ーーー * ーーー * ーーー * ーーー * ー
状況:3月29日(月)朝8時頃。出勤途中の秋葉原駅ホーム
電車の到着が遅れると、アナウンスが流れた。
身体:動悸、口の渇き、指の震え、汗
行動:ホームから、会社に電話をかけた
気分:悲しい、憂うつ
思考:会社に着くのが遅れてしまう。
やっと着いたって、どうせまた課長に怒られるんだ。
ああ、もう嫌だ。行きたくない。
ーー * ーーー * ーーー * ーーー * ーーー * ー
③5領域について
このように簡潔に書いていくのですが、ここで各領域について詳しく説明します。
状況は、「いつ・誰が・どこで・何を・どうした」といった事実です。5W1Hですね。
身体は、そのときに生じた身体の反応。
Aさんの記したもの以外でも、涙が出た・鳥肌が立った・手足が冷たくなった等々ありますし、
あるいは特に何の反応も起きないことも多々あります。
ない場合は、「なし」と」書いても、空欄のままでも構いません。
行動は、そのときにしたこと。
よく、「何にもしなかった。ただ寝ていただけ」と言われるのですが、
そのときは「布団の中で横になっていた」とか「ベッドに寝ていた」と書いてね、と話しています。
だって、「寝ること」はしていたんですから。
誰であろうが、決して「何もしていない」なんてことはない、と私は思っています。
気分とは、ここでは簡単な言葉で表現される、心の状態です。感情。ひと言で記します。
思考は、自然に頭の中に浮かんできた思いや考えのことですが、それは言葉だけではなくて、イメージや記憶のこともあるのです。
例えば、幼い頃の悲しい出来事が思い出されてきたのならば、それも思考として扱います。
④書いてみよう
せっかくここまで読み進めてくださったのですから、実際に体験してみませんか。
ノートを1冊用意してください。
どんな大きさでも構いませんが、ルーズリーフのようにばらばらにならない、綴じられたノートでお願いします。
そして、あなたの気分が動いた日に、あなた自身を5領域を使って書き記してみてください。
これは、マイナスの気分のときだけでなく、嬉しい・楽しいといったプラスの気分のときにも取り組んでほしいと思います。
左端から3センチくらいのところに縦線を引いて、
線の左側に、5領域をタイトルとして書いて、
その右側に、そのときのあなた自身についてを書いてみる。
サンプルとして、私の手書きノートを載せておきます。
これは、10年以上も昔に許可をいただいて論文にさせていただいた、ある社交不安障害のクライエントさんが綴ってくれた『思考記録表』を元にしています。
実際に書き始めてみると…
あぁ、私って、こういうことで喜んだり怒ったりへこんだりするんだな ってつかめたり。
がんがん書きなぐるうちにモヤモヤだとかイライラが、いつの間にか少し軽くなってたり。
とりあえず浮かぶことから書き出してたら、頭の中の整理がついて、少しスッキリしてみたり。
書くこと自体、代表的なストレスコーピングでもありますし❀
毎日でなくて構いません。
それから、「正解」も「不正解」もありません。
難しく考えなくて大丈夫。
簡潔な、ただの日記です。実のところは。
まずは書いてみること。始めてみること。
ただし、書くのは必ず手でしたね。
手書きが脳に与えるメリットは、CBT②セルフモニタリング『生活リズム表』#9で説明したとおりです。
そして、この「手で書く」という動作にかかる時間は、激した感情を鎮めるためにも役立ちます。
やがてあなたが認知行動療法を習得できた暁には、セルフカウンセリングができるようになっています。
そんな自分の姿をわくわくと想像して、楽しみながら取り組んでほしいと思います。
❀一人でも多くの方が「生きづらさ」を手放して、人生を楽に楽しく生きていけるようになりますように。
❀一人でも多くの方の 心からの笑顔を見たい、と願っています。
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