『社交不安障害』とは? ~HSPだからと諦めてしまう前に~ #15
前回のブログ『認知行動療法で社交不安障害を克服したB子さん』(☞#13~14)に続き、次回は社交不安障害を認知行動療法とはまた違う方法で克服したA子さんについてご紹介していく予定です。
そのため、前回ブログの中でも少し触れましたが、さらによく理解していただくために、ここでもう一度『社交不安障害』について説明します。
1.社交不安障害とは
社交不安障害は、人からどう思われるか(変だ、おかしい、みっともない、バカだetc.と思われてしまう)が過剰に気になって緊張するため、人の前で行動することが非常に難しく、回避してしまう疾患です。
1)具体的には
人前で:話す・字を書く・飲食する・電話をすること
美容院・店・公衆トイレ・公共交通機関などを利用すること
(※パニック障害と根本思考が異なる:パニック障害は身体的生命の損失が、SADでは社会的生命の損失が恐怖の本質)
自分を紹介する・紹介される、接客する・接客される 等々の状況下で、
心理症状:人の目が異常に気になり、不安が高まる結果、
身体症状:動悸・震え・発汗・赤ら顔やほてり感・声の震え・吐き気や下痢などが現れ、
いつもの行動ができなくなってしまう というものです。
また、これらの状況に身を置くことを考えるだけでも強い不安を感じるため、社交の場に出られず、回避するようになってしまいます。
2)診断
以前は「社会不安障害」とも言われていました。
そして、2013年の診断基準『DSM-5』より「社交不安症」へと変更されましたが、依然「社交不安障害」の方が多く使われています。
Social Anxiety Disorder 、略して SAD と表記します。
~ DSM-5 300.23 社会不安症 (2014.2. 貝谷) ~ * ~ ~ ~ * ~ ~ ~ * ~ ~
A.他人の注視をあびるかもしれない社会的状況に対しての顕著な恐怖もしくは不安。
例えば、
社会的交流(例:会話をする、知らない人に会う)
注視される(例:食事をする、飲み物を摂る)
他人の前で行為をする(例:スピーチをする)。
B.その人は、
自分が否定的な評価(例:恥をかかされる、恥ずかしい思いをする、拒絶されることにつながる、他人の気分を害する)を受けるような行動を取ったり、
不安症状を呈すること
を恐れる。
C.この社交的状況はほとんど常に恐怖もしくは不安を誘発する。
※子どもの場合は、社会的状況で泣く、かんしゃくを起す、立ちすくむ、まとわりつく、遠ざかる、うまく話せないという形で、恐怖または不安が表現されることがある。
D.この社会的状況は回避されるか、そうでなければ、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる。
E.この恐怖もしくは不安は、その社会的状況における実際の脅威に相応しないし、社会文化的兼ね合いからも釣り合いを欠いている。
F.この恐怖もしくは不安は、通常6カ月以上持続する。
G.この恐怖、不安、もしくは回避は、臨床上著しい苦痛を引き起こすか、もしくは、社会的、職業的、または他の重要な活動領域における機能を損じている。
H.その恐怖、不安、もしくは回避は、物質使用(例:薬物乱用、服薬)または他の医学的状況の生理学的効果によるものではない。
I.その恐怖、不安、もしくは回避は、他の精神障害、例えば、パニック症、自閉症スペクトラム、醜形恐怖症の症状により説明することはできない。
J.他の医学的状況(例:パーキンソン病、肥満、火傷や外傷により容姿が損なわれている状態)が存在している場合、この恐怖、不安、もしくは回避は、明らかにそれらとは関連がないか過剰である。
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3)病態生理~画像(fMRI)研究
・脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミンなど)のバランスの崩れ
●不快表情提示➡扁桃体または前帯状回の過活性、線条体の活動性低下
●公衆の前でのスピーチ時➡前頭眼窩皮質の活性低下
●不快表情刺激➡扁桃体活性、前頭眼窩皮質および後帯状回皮質/前楔部との結合性低下
*前頭眼窩皮質:人間関係・道徳・社会活動・情動の評価と扁桃体制御に関係
*後帯状回皮質/前楔部:身体感覚も含めた自己参照機能に関係
4)治療
・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
*認知行動療法(CBT)とりわけ暴露療法の効果は十分に認められており、その平均効果量は1.8と薬物療法より高い。
・一般に、SSRIでは効果発現がより速く、CBTでは効果がより持続的である。
私が心療内科でカウンセラーとして働き始めた当時、社交不安障害で悩むクライエントさんの多くは、息子と同世代の少年少女たちでした。
まさに「青春」を謳歌して然るべき年頃の彼らが、学校にも行けずに一人でもがき苦しんでいる。
狭い部屋の中で、誰にも話せない苦痛や苦悩を打ち明ける。誰にも見せない泣き顔で。
そのことが私に「社交不安障害の認識を、理解を、うつ病と同じくらいに広げなければならない」
の使命感を与え、当時の私を突き動かし、論文執筆まで至らせたのでした。
年月を経て、社交不安障害の認知度は上がってきているものの、まだまだ不十分です。
いまだに周囲だけでなく本人自身も「単なる上がり症」や「性格の問題」などと捉え、
「気の弱さが原因。情けない」とか「誰でも人前で行動することはある程度は緊張するし、それが単に強まっただけ」と考えられていたりします。
そのため、なかなか受診にもつながらず、一人で抱え込んで苦しみ続けているのです。
また最近、SADよりも加速度的な認知の広がりを見せるHSP。
その特徴は「感受性が人より強く敏感で繊細なため、音や光や対人関係などの影響を受けやすく、周囲に気を遣いすぎて疲れてしまう人」と言われています。
しかも、これらの特性を備えた人は人口の約20%(1/5)もいるそうです。
この対人関係の脆弱さはSADの中核症状でもありますし、音や光の刺激に弱い=物音に驚きやすい という特性は、扁桃体の過活性とも重なります。
そこから考えていくとHSPの特性は、あるいはHSPという人達の中には、SADの他に、いわゆるアダルトチルドレンやトラウマを抱えた人が多く含まれているのではないかと考えています。
いずれにしても、過緊張により自然な行動がとれないということは、想像を絶する大変な苦痛です。
ですから「HSPを知って、自分もそうだったんだと腑に落ちて安堵した」としても、それでも長年の苦痛まで取り除けたわけではないのなら、その特性や症状を改善したいと思うなら、カウンセリングを受けてほしいと思います。
SADの治療のところで記したように、例えば「薬物治療よりも効果量が高くて持続性がある認知行動療法」のようなエビデンスのしっかりした、現実的で具体的な対処法も実存しているのですから。
例えば、ブログ#13~14認知行動療法で社交不安障害を克服したB子さんや、このあと#16で登場するA子さん。
彼女たちは、十年以上も前にカウンセリング受け、長く自分を苦しめてきた社交不安障害を克服していきました。
そして、今の「自分の人生」をしなやかに楽しんで生きている、実在する方たちです。
うつ病や不安障害などのメンタル疾患も、診療とカウンセリングの両輪で進めていくことにより、回復した方が本当に多くいらっしゃいます。
カウンセリングの力を信じてほしいと思います。
一人でも多くの人が「自分の人生」を楽に、楽しく幸せに生きていけますように。
一人でも多くの方の、心からの笑顔を見たいと願っています❀
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