社交不安障害を克服したA子さん (後編) #17
数多ある心理療法の一つに、
『ソリューション・フォーカスト・アプローチ(SFA)ブリーフセラピー』
があります。
問題の原因を個人病理に求めずに、相互作用の変化の促進により問題解決に導くというものです。
「原因が何か」ではなく、「今ここで何が起きているのか」を重視します。
原因追求しないため短期間で解決できるとされていて、エビデンスも挙がっています。
そのため、医療分野だけではなくて、教育分野、ビジネス・組織マネジメントなどのコーチングスキルとしても用いられています。
【第5回】
暗い表情で入室。
●3つも、つらいことがあった。
1つ目は、彼と夕飯を食べに行ったとき。
近くにいた酔っぱらいのおじさんと目が合っちゃったら、緊張して…。
手が震えて、パスタを上手く食べられなくて、涙が出た。
2つ目は、友達とファミレスでランチを食べていたとき。
隣の席の、同じくらいの年の女性と目が合って緊張した。
手が震えて、息が荒くなって、泣きたくなった。
3つ目は、この前ここを受診したとき。
待っている間は、隅の席でウォークマンをして雑誌を見ていたんだけど、
他の人の話し声が聞こえた途端に、
《私のことを話してるのかな》って、怖くてたまらなくなった。
いつになっても、フツウになれない。
と、ぽろぽろと涙をこぼしながら、しゃくりあげて訴えた。
🌸このときふと、SFAの技法の一つである『ミラクル・クエスチョン』を投げてみようと考えました。
彼女は「フツウ」という言葉を何度も繰り返しては、そうなれない自分を卑下して責めてばかりいました。
一方で、人混みへの外出は非常に苦痛にも関わらず、こちらが痛々しさを感じるほど積極的に、
毎回外出を試みていました。
本来であれば、不安緊張の度合いを下げてから、適切なタイミングを見計らって、
スモールステップで進めていかなければならないところです。
でも、カウンセリングの度にブレーキをかけるように努めても、彼女は何度でも挑んでいました。
それは焦りだけではない、持ち前の行動力だったと思います。
だからこそ、そんな強い行動力をもつ彼女には、突飛で非現実的に見えるアプローチも適していると思えたのです。
『ミラクル・クエスチョン』は例えば、
~あなたが急に病気が治ったような「奇跡(ミラクル)の朝」を迎えたとして、
あなたはいつ、どこで、どんなことをしているときに、その奇跡に気づくでしょうか?~
といった、とても風変わりな質問です。
●この質問を受け、躊躇しつつも暫く考えてから、
奇跡に気づくのは… 目が覚めて、彼に電話した後だと思う。
彼は朝が弱いから、毎朝6時半にモーニングコールしてあげてるの。
いつもなら、電話を切ったらまた寝ちゃうんだけど、
奇跡の朝なら、お天気もすごく良くて、何だか出かけたくなっちゃって、
お気に入りのワンピースを着て出かけるかな。
それで、《あれ、治ったのかな?》って思うかもしれない
と、答えた。
➡その後もその『奇跡の一日』について詳細にありありと思い描いて語ってもらうと、
表情が明るく変化していった。
➡その『奇跡の一日』の一部分をやってみることをホームワークにすることで合意。
「おもしろそう」と、嬉しそうに引き受けた。
🌸『セロトニン・トレーニングについて』の心理教育も実施
【第6回】
愛らしい花柄のワンピースで入室。
●先月末の天気のいい日に、『奇跡の日』のつもりで家を出た。
以前、母と彼と友だちが「とても似合ってて可愛い」って言ってくれた、
お気に入りのこのワンピースを着て、この間のショッピングモールに行ったの。
そこで、また同じくらいの女の子と目が合ったんだけど、あんまり気にならなかった。
まだ、ちょっと怖さと恥ずかしさはあったけど、いい感じだったと思う。
と、嬉しそうに話した。
🌸丁寧なコンプリメントの後、『回復過程について』の心理教育を実施
➡話し合いの結果、ホームワークは、
次回までに『奇跡の日』を2日作ってみる で合意。
【第7回】
明るい笑顔で入室。
●この前のカウンセリングの次の日に、会社に行ってみた。
行く前は不安だったけど、ちゃんと呼吸法をやっていったから、大丈夫だった。
着いたら、みんなに笑顔で迎えてもらえて、嬉しかった。
社長に「戻ってきたら、やってもらうことが山ほどあるぞ」って言われた。
オッチャンからは「相棒がいないと寂しいよ」って言われたの。
オッチャンが、業者さんの変な話や、社長と奥さんの夫婦喧嘩の話、私がいない間のおかしな話をしてくれて笑い転げた。
それで、来月からの復職も決めてきちゃったんだけど、もう、前みたいな不安はないから大丈夫。
早くオッチャンと仕事がしたい。
●彼の家まで、一人で電車に乗って行くこともできた。
Suicaを使うのも、他の人と目が合うのも気にならなかったし、
駅前のカフェで一人でお茶を楽しむことまでできた。
彼がプレゼントを買ってくれたときも、自分から店員さんに話しかけてた。
●両親も、彼も「もう大丈夫だね」って認めてくれた。
自分でも、そう思える。
ちょこっと頑張れば、こんなに変われるんだなって思う。
こちらの目を見て、元気よく、楽しそうに教えてくれました。
そしてこの後、1カ月ペースを2回続け、復職も日常生活も安定していることを確認して、合意の上終結となりました。
いかがでしたか。
今回のSFAのアプローチは少し風変わりに感じられたかもしれませんが、
「視点を未来に移して客観的に考える」というやり方は、認知行動療法の「反証を見つける」方法にも存在します。
対人関係療法にもゲシュタルト療法にも同様の方法が存在しています。
ですから、療法や技法に拘泥するのではなく、機を逃さず臨機応変に質問してみることが重要だと実感しています。
何より、彼女が真正面から自分と向き合い、
心理教育や課題に真摯に取り組んだことで培った自信、
信用できる周囲への開示により、受容され味方を得た安心感、
そうした様々なことが、彼女を変えていきました。
彼女は、自分で変化を起こしたのです。
このようにカウンセリングは、
「何を話しても大丈夫。何が出てきても驚かれない」という安心安全な空間で、
存分に自分と向き合って考え、納得しながら真の自分を取り戻していくことができる場 です。
そして、社交不安障害などのメンタルの疾患や悩みというものは、必ず克服できるのです。
カウンセリングの力を信じてほしいと思います。
一人でも多くの人が「自分の人生」を楽に、楽しく幸せに生きていけますように。
一人でも多くの方の、心からの笑顔を見たいと願っています❀
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