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認知行動療法で社交不安障害を克服したB子さん(前編) #13

2021年04月29日

 

今回から、認知行動療法を導入したカウンセリングの実際ついて、お話しします。
認知行動療法ブログ(『自分で認知行動療法①~⑤』#8~12)を読んでみて、自分でもやってみたいと思った人や、取り組み始めた人たちが、もう少し具体的にイメージできたらいいなと思います。
また、現在カウンセリングにきている方が、他の人の具体的なところも知りたいと仰ったりもしています。
より良い理解に繋がれば嬉しいなと思うのです。


🌸B子さんは、十年以上前にカウンセリングに取り組んで社交不安障害を克服した方です。

そして、『社交不安障害』の認識と理解を広めたいという私の思いに賛同して、当時、学会で事例発表するための論文執筆にあたり ご協力くださった方でもあります。

~社交不安障害(社交不安症、SAD)とは~
*他人の注目を浴びるかもしれない社交の場(具体的には、人前で:話す、字を書く、飲食する、電話する、美容院やお店で接客される..等々)で、恥をかいたり迷惑をかけたりすることへ強い恐怖を抱くため、仕事・対人関係などの日常生活に支障が生じてしまうもの。

彼女の意志に敬意を払い、そして、現在も社交不安障害やそれぞれの悩みで苦しんでいる人達に希望を持っていただけることを願って、丁寧に記していきますね。

そしてもちろん、彼女のイメージは保ちつつも、そのプロフィールは大きく変更しています。

 

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B子さんは、高校3年生です。

主訴(しゅそ:患者の訴えの中で、主要な症状のこと)は、
自分の顔に自信がない、マスクが外せない、不登校、本当は学校に行きたい
などでした。

家族は、父親(50代・会社員)、母親(50代・会社員)、姉(大学生)との4人暮らしです。

カウンセリングのペースは、9回目までは週1回、10回目〜11回目までは二週間に1回、その後1ヶ月空けて、12回目に終結となりました。

 

【第1〜2回】
制服姿にマスク着用。
マスクの上から見える目は、二重でパッチリとしている。

 

●去年、2年生になってから、
《友達と近くで話すのが、少し嫌だな》と感じるようになった。
でも、頑張って明るい自分を演じて、何とか普通に過ごしていた。

10月に喫茶店でアルバイトを始めた。
駅に近いため、いつも混んでいて忙しかった。
やっと慣れてきた頃、店長から「接客は相手の目を見て」と注意され、忙しいときには「何やってんだ」と怒られるようにもなった。
12月頃から、レジ打ちのときに手が震え始めた。
《失敗しないように。怒られないように。震えないように》ばかり考えるようになり、とうとう今年の1月末でそのアルバイトを辞めてしまった。

バイトが怖くなった頃から、友達との近い距離がますます嫌になり、2月から学校にも行けなくなった。

テスト期間はマスクをしてテストだけ教室で受けて、休憩時間は一人で過ごせる別室を用意してもらった。

マスクをした顔を見られるのが嫌なんだけど、自分の顔に全然自信がないからマスクは外せない。
堂々巡りしてる。

 

●先月は、週1で登校した。
その時は必ずマスクをして行った。

制服は可愛いし、学校も嫌いじゃない。
春休み中なのに今日こうやって着てきたのは、制服と学校が好きだから。

3年で体育祭や文化祭が最後だから、マスクを外して参加したい。
今は「花粉症」で通るけれど、体育祭の頃まで着けていたら、みんなに変だと思われてしまう。

友達と遊んで、プリクラも撮りたい。
大学に行きたいから、出席日数も増やしたい。

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コロナ禍にある現在はマスクが当たり前ですので違和感を感じてしまうかもしれませんが、
当時=コロナ禍以前に記憶を戻して読んでいただきたいと思います。


B子さんは、ずっとマスクは外しませんでしたが、落ち着いて私の目を見て話し、時折笑顔も見せてくれました。

彼女は自信がなくて、強い不安感を抱いているにも関わらず、「学校が好き」と言い切って、意欲や希望をしっかりと持っていました。

そして、このように目標が明確で、かつ書くことも好きということでしたので、『認知行動療法』が適当と考えました。
説明すると「やってみたい。治すためなら何でもやる」と即答されたため、早速導入が決まりました。

 

実は、B子さんのように「マスクを外せない」という悩みは結構多くありました。

人の視線を恐れる人にとって、マスクは表情を隠してくれる便利で安心なアイテムです。
余談ですが、この効果を利用して、モラハラ対策の1つにマスク着用も勧めたりしています。
これについてはまた別の、ハラスメントについての回で、詳しくお伝えしていきますね。

とにかく、顔や表情に自信が持てない人にとって、マスクはとても手軽で優秀なバリアです。
だからこそ、その安心なバリアを、B子さんはどうやって外すことができたのでしょう。

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【第3〜4回】

制服姿で、マスクはしている。

着座するとすぐに、小学6年生のときに受けたいじめについて語り始めた。

●6年のクラスに Yちゃんというボス的な子がいて、彼女は私に「親友だよね」と言っていた。
おかげで私は《この子のそばにいれば、クラスでの私の地位は上がる》なんて安心してた。
その上、他の友達の格付けまでやっていた。

2学期のある日、Yちゃんから「放課後、遊ぼう」と誘われたんだけど、その日はなんだか遊びたくなくて、嘘をついて断ったの。

そうしたら、運悪く、近所の子と出かけるところを見られちゃった。

次の日から毎日Yちゃんと周りの子達にシカトされて、学校へ行けなくなった。
二週間くらいは頑張ったんだけどね。

お母さんが送ってったり、担任の先生が迎えに来たりして、時々は登校したんだけど、
ある日、先生が Yちゃんを呼び出して「二人で話し合ってね」って二人きりにしたの。
ボス的な存在の Yちゃんと話し合うなんてできるはずないし、Yちゃんは私をにらみつけて教室を出ていった。

結局、もう学校には登校できなくて、しばらくしてからフリースクールに変わったの。
フリースクールではみんなが可愛がってくれたから楽しくて、毎日通うことができた。

●中学は地元の学校に通ってみたけど、やっぱり半分くらいしか行けなくて、2年の秋に転校した。
そこは、担任も友達も優しかったから、順調に通えた。
でも心の中は《もう失敗できない。小学校で出られなかった卒業式に絶対に出る》って必死だった。

けど、3年の夏休みが終わったらまた急に怖くなって、行けなくなっちゃった。

ずっと家にこもってパソコンばっかりやっていたから、視力が1.2から0.1以下まで落ちた。
自分の容姿に自信が持てなくなって、一日中、鏡の前から離れられなかった。
親のいない昼間は、ご飯もその鏡の前で、ぼーっと自分を見ながら食べていた。

ただ、心配してくれてる両親には申し訳なくて、一年間ずっと平日の夕食は作っていた。
「ありがとう」と言われるのが嬉しかった。

結局、中学校も卒業式には出られなかったんだけど…。

●だから、高校に入ったときは《今度こそ、絶対に友達と遊んで、思い出たくさん作って、必ず卒業式に出るんだ》って固く決意してた。
それなのに、また、こんなふうになっちゃった。

●でもね、先週の金曜日と今日は、学校に行けたの。
門を入ったら、私を見つけた友達が「一緒の授業をとろう」って言って、走ってきてくれたの。
今までさんざん遊ぶ約束はドタキャンしたし、メールに返信しないこともあったから《嫌われてる》って思ってたのに。
嬉しかった。

今週は、午後1時から3時までだから行けると思う。


◆ホームワークの『思考記録表/認知行動療法』より

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1)
状況:4月13日(金)、登校時、友達と会話中

身体:人目が気になって、キョドった

気分:焦り、情けなさ、自己嫌悪、悔しい、憤り

行動:できるだけ普通なフリをした

思考:
・久しぶりの学校で疲れた
・みんな「春休み、ずっと学校来てたー」だの、「風邪ひいて、ランド行けなかったー」だの言ってて、いいな。
・みんな楽しく過ごしているのに、私は? 情けない。
・いつか、きっと、みんな離れてく。。。
  

2)
状況:今日の午前中、学校で、友達が「一緒の授業とろー」って言いながら、私のところに来てくれた

身体:汗出た、涙出そうだった

気分:うれしい、ビックリ

行動:キョドってたかも

思考:
・遊ぶ約束ドタキャンしたし、メール無視してたから、《嫌われた》思ってたのに。
・ちょっと元気になりました♪


▶話し合いにより、次回までのホームワークは以下のように決めた。

1)来週は『4限までいて、昼食は食べずに帰る日』が3日あればいい

2)その日の帰りは、
①天気が良ければ、家まで8分ほどの公園のベンチで、 
②天気が悪ければ、駅のホームの隅にあるベンチで、
SOYJOY(ストロベリー)を食べること

 
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「自分で宿題を決められるなんて凄いね!」と、楽しそうに考えていた。

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B子さんは、いじめの話のときこそ泣いていましたが、私が中学時代の夕食作りを褒めるとはにかんだ笑顔になりました。
そして、宿題の『思考記録表』をしっかりやってきてくれたことも嬉しかったものですから、それも思いきり褒めまくりました。
だって、初めてなのにこの記録表、凄くないですか?

『思考記録表』は、自分の内面としっかり向き合うためのものです。
ですから正解・不正解はありません。
臆せずに、とにかく取り組んでみることが大切です。

これを読んでくださっている方たちにも、B子ちゃんの勇気とパワーが伝わったらいいなと思っています❀

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一人でも多くの人が「自分の人生」を楽に、楽しく幸せに生きていけますように。
一人でも多くの方の、心からの笑顔を見たいと願っています❀

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