アダルトチルドレン

HSPと決めつける前に ~社交不安障害やアダルトチルドレンとの類似性~ #21

2021年05月24日


「HSPは先天的だから仕方がないとはわかっているんですけど…」

「生まれつき背の高い人がいるみたいに、HSPも生まれつきなんだって言われました」

HSPは変われないからその繊細さを大事にして、こうすればいいんだよ って、
いろいろ教えられたけど、できなくて…

「HSPを初めて知ったときは、自分の苦しみの原因がわかってとても嬉しかったんです。
だけど、本に書いてあることや教わったことは… それができないから苦しいのになって…


カウンセリングが始まるときに、こんなふうに話す方が増えています。



生きづらさを感じながら日々の生活を送るというのは、非常にしんどくて苦しいものです。

ですから、この苦しさは何なのだろう?」と考えて、調べて調べて調べ抜いて…
そして、ようやく『HSP』にたどり着いた。
チェックリストをやったら、見事に当てはまった。
ほっとしたし、嬉しかった。

この気持ち、痛いくらいにわかります。

それがたとえ、うつ病や社交不安障害などの疾患であったとしても、
医師から診断名を告げられた途端に泣き出した人を、
「よかった。私の感じ方がおかしいわけじゃなかったんですね」といって泣く人を、
医師から「大丈夫、病気なんだから治るから」と言われて泣いた人を、
たくさんたくさん見てきたから。
そして私自身、うつ病の診断を受けながら、長い期間を生き抜いた経験があるから。


自分を苦しめ続けてきたものが何ものだったのか、
苦しみの正体が明確になったとき、人は安堵します。
つかみどころのなかった、お化けみたいに感じていたものの正体がつかめたから。
つかめたことによって、そこには治療具体的な対処法が用意されているってわかったから。
私自身も今こうしてすっかり完治して、毎日を元気に快適に楽チンに生きていられてるから。


冒頭の「HSPは先天的だから仕方がないとわかっているけど…」といった方は、主治医から
「あなたが言うようにHSPなら仕方ないけど、今のあなたはうつ状態だから薬を出しておくね」
と言われているそうです。
私は実際に「HSPが原因だ」と言ってのける医師に出会ったことはありません。
ただ、SNSの中で「HSPや繊細さんは…」と発信している医師もいることは知っています。


けれど、正直、私はHSPについては懐疑的です。
ですから、精神科医なのに、カウンセラーなのに「繊細さん」と言ってのけたり、
HSPを当たり前に語る精神科医やカウンセラーは、信用していません。


先天的に嗅覚・味覚・聴覚・皮膚感覚に敏感な人は確かにいますけれど、
本当の意味での=「先天的」というHSPの方は少ないと考えています。

そして、HSPの特徴とされている、相手の表情や視線・声のトーンに敏感だったり、
注意や指摘に落ち込みやすいという傾向は、
社交不安障害(SAD)や愛着障害・アダルトチルドレン(AC)と酷似している
と思っています。
「いわゆる巷のHSP」って、社交不安障害やアダルトチルドレンじゃないのかな?

ですから、そうした可能性のある人達に、
「HSPだ」と決めつけて、根本からの改善や克服を諦めてほしくありません。
適切な治療やカウンセリングなどの対処によって治癒・改善・克服できるはずの機会を、
無責任に奪ってほしくないのです。

あるいは「先天性のものだから、個性として大切にして、こうすればいい」などの
アドバイスでがんじがらめにしないでほしいとも思っています。



1.HSPとは
1)HSPとは何か?
Japan Sensitivity Research(現在、HSPやHSCに関する様々な情報が発信されていて、研究に基づく信頼できる情報にたどり着くことが困難なため、環境感受性を専門とする研究者により作成されたウェブサイト)の報告より引用

HSPとは、Highly Sensitive Person の略で、
専門的にいうと、「環境感受性」が特に高い人達を表すカテゴリまたはラベルです。
環境感受性は、ヒトが誰もが持つ一般的な性質で、連続的な特性(スペクトラム)として
特徴づけられる概念であるため、そもそも分類を推奨しない研究者もいます。

神経生理的な研究知見はまだ限られていますが、
環境感受性が高い人は、扁桃体(感情)・海馬(記憶)・島皮質(共感)などの脳領域が
環境刺激を受けて賦活化する傾向が比較的強いことがfMRIで確認されています。

☞これらの脳領域の賦活化は、当ルームにおけるカウンセリングの中で、
 社交不安障害
アダルトチルドレントラウマを抱えている方へ必ず行っている心理教育、
 「闘争‐闘争反応」に関わる 扁桃体腹側迷走神経系複合体の調整不全(ポリヴェーガル理論)とも合致
 しています❀


また、HSPの広まりとともに汎用されているチェックリストも根拠は不明で、
HSPか非HSPであるかを切り分ける明確な基準もありません。
そのため、こうした分類は科学的なコミュニケーションを円滑にするためには役立ちますが、
不適切なスティグマを生んだり、疾患の可能性もあるため、現段階では留意が必要とされています。


2.HSP関連の書籍から
※『繊細さんの本』『繊細さんの幸せリスト』『繊細さんの知恵袋』より引用

1)HSPの特徴
①深く処理する
・様々なことを瞬時に感じ、他の人が通常考えない深さまで考える
・気遣いしすぎるため、誘いを断れない・人に頼めない・指示できない

②過剰に刺激を受けやすい
・大きな音や光、暑さや寒さ、痛みなどに敏感
・楽しいイベントでも刺激を受けすぎて疲れたり、興奮して目がさえて眠れなかったりする
・人と長時間いると疲れる

③感情反応が強く、共感力が高い
・他人の気持ちを察しやすい
・周囲に機嫌が悪い人がいると、緊張して苦しい
・愚痴や不満を聞きすぎる
・弱みを見せられない

④些細な刺激を感知する
・相手の声のトーンや視線、自分を笑ったことなど、細かいことに気づく
・気がつきすぎて、仕事に時間がかかる
・他人の雑さが気になる
・ちょっとした指摘に落ち込む



2)大変さの原因
①5人に1人という少数派
・脳の神経システムの違いによる、生まれもった気質。先天的なもの
 =「気にしすぎる」「真面目すぎる」といった個人の性格によるものという誤解

育った環境の影響
・安心感の少ない家庭で育ったり、いじめを受けた経験
・虐待的な環境でないにしても、
 感覚の違いから繊細さを「神経質」「わがまま」などと言われて育った
・話したことを理解してもらえない、受けとってもらえないという環境で育つ

③社会の状況
・自己責任が強く叫ばれ、雇用が不安定になり、社会福祉制度にもほころびが目立つなど、
 自力で生き残らなければならない社会


3.思うことは…
「生きづらさにつながるHSP」って、本当にあるの?
「いわゆる巷のHSP」って、やっぱり、社交不安障害やアダルトチルドレンじゃないのかな?
でした。

書籍のいう「HPSの特徴」は、

社交不安障害の人の、他者からの否定的な評価に対する恐怖や、
アダルトチルドレン、トラウマを抱えている人の、敏感性・過敏性・脆弱性、反応性、
低い自信や自己肯定感、バウンダリー(境界線)の曖昧さなどに酷似しています。
それを踏まえた上で…


あれほど「背の高い人がいるように、先天的な脳のシステムの違い」
と説明していたのに、どうして「育った環境の影響」や「社会的状況」が何度も出てくるの?
というのが、まず第1の感想であり、疑問でした。


社交不安障害
は、現在、医療関係者間で認識が高まっているにも関わらず、
なおも当人は治療を受けるまでに何年もの長期にわたり、一人でその症状に苦しめられています。
これは、元来ある「内気」や「臆病」などの言葉の陰に隠れてしまっていて、
「治療可能な疾患である」ことになかなか気づけないことにも由来します。

ですから、
その上「繊細さん」のような耳障りのいいHSPというラベルが出現したことで、
さらに受診や治療的カウンセリングを受ける機会が妨げられてしまうのではないか
と危惧しています。


HSPの「病名ではない」という説明は、
一見、アダルトチルドレンカサンドラ症候群のものと同じです。

しかし、アダルトチルドレンやカサンドラ症候群については原因や症状(特徴)が明確で、
医学的・科学的エビデンスが豊富です。
そのため、一方的なアドバイスに依らない、現実的で具体的な対処法もしっかり存在しています。

特に、アダルトチルドレンについて言及すると、
人生の重要な初期を不安定(過酷)な家庭環境で過ごすことは、
その人生に多大な悪影響を及ぼします。

うつ病や不安障害などメンタル疾患の方のカウンセリングの中で、そうした不安定な生育歴を
知ることも少なくありません。
本人を苦しめる「認知の歪み」や「反応」が培われてしまうのも、悔しいけれど頷けます。


ですから、書籍のいう「大変さの原因」の中の ②育った環境の影響は、
まさにアダルトチルドレンに合致しています。

また、同じく「大変さの原因」の ③社会の状況については、
『格差は心を壊す 比較という呪縛』(リチャード・ウィルキンソン、ケイト・ピケット著)に記された、
社交不安障害に通じています。



「5人に1人」というのは果たして本当に「少数派」なのでしょうか?
 10人のうち2人はHSP、100人いれば20人もHSPの人がいるということになります。
 これは、社交不安障害・うつ病・アダルトチルドレン・トラウマを抱えた、
 「生きづらい」人々の総計に匹敵するのではないかとも思ったりします。


以上、関連書籍を読んだり文献等も調べてみて思ったことは、
「生きづらさにつながるHSP」って、本当にあるの?
巷で流行しているHSPって、やっぱり、社交不安障害やアダルトチルドレンじゃないのかな?
でした。

もちろん、反論もあるのでしょうが、必要なのは情報の取捨選択ですね❀




最後に。
クリニックをはじめ、15年以上カウンセラーをさせていただいています。
自信がなくて、人の目が怖くて、感情がわからなくて。。。
自らの症状や生きづらさに悩み、ときには死をも考えてしまう人もいます。

語り、泣き、それでも頑張り、退室のときには笑顔で「また来る」と言ってくれます。
けれど、ドアを閉じた向こうまでは、彼らの声も私の声も届きません。
私は絶対に誰にも死んでほしくありません。

苦しみや生きづらさから解放されて、「自分の人生」を少しでも楽に生きてほしい。
幸せを感じながら、ただ楽に生きていってほしいのです。

そのために、私も日々頑張り続けます。
看護師出身なので、医学的根拠のないものは好きではありませんし、信用もしません。
心理士なので、信頼性や妥当性のないものは信用できないのです。
最新の信頼できる知見を貪欲に吸収して、実践に活かします。

だから「HSPだから、先天性だから仕方がない」なんて、絶対にあきらめないでください。
克服の方法はちゃんと用意されていますから。




一人でも多くの人が「自分の人生」を楽に、楽しく幸せに生きていけますように。
一人でも多くの方の、心からの笑顔を見たいと願っています❀

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