複雑性PTSDとは

複雑性PTSDとは、長期間にわたって繰り返し受けたトラウマ体験(不適切養育、いじめ、夫婦間や職場でのハラスメントなど)によって生じた、精神的・身体的に苦しい症状をもつ疾患です。

たとえば、
  • 自信がない。自分に価値を認められない
  • 怒りや恐怖などの感情がコントロールできない
  • グルグル思考。常に頭の中が忙しい
  • 健やかな対人関係を築けない
  • 一方的に関係を断ってしまう
  • 常に緊張していてリラックスがわからない
などの症状があります。

トラウマとは

トラウマとは、個人で対処できない非常に恐ろしい体験によって受ける心の傷です。
大きく2種類に分かれます。

1.単回性トラウマ

『あのとき』と限定することができる恐怖的出来事による。

  • 事件・事故、災害、テロ、レイプ など

2.複雑性トラウマ

逃げることができない状況下(家庭・学校・職場など)で、日常的に長期にわたって繰り返された、非常な苦痛や恐怖を伴う体験による。

  • 親の不適切な養育:身体・性的虐待、心理的虐待(暴言・にらんだり大きな声や音で威嚇する・からかい
  • きょうだい差別・悪口を聞かせ続ける)、面前DV(激しい喧嘩の目撃)、ネグレクト など
  • ACE(逆境的小児期体験):不適切養育の他、いじめ、貧困、度重なる転校 など
  • 夫婦間や職場で、長期にわたり繰り返されたハラスメント

複雑性PTSDの症状

WHOによる診断基準『ICD-11』により、「PTSD3症状+追加3症状」となっています。

1.PTSD症状

1再体験:

過去のつらい体験の記憶が無意識によみがえり、当時の苦しみを味わい続けます。

  • フラッシュバック:映像だけでなく、痛みや感覚・感情なども含みます
  • 悪夢:虐待した人が出てくるだけとは限りません。追いかけられる、沼に沈む、気持ち悪い声や何かに苛まれるなどの夢もあります
  • トラウマと関連した侵入思考やイメージ

2回避と麻痺:

苦痛や痛みを感じないように努力しています。

  • トラウマについて、話をしたり思い出したりしないようにする
  • トラウマを思い出させる活動・場所・人を避ける
  • 出来事の一部が思い出せない
  • 喜びや愛を感じられない

3過覚醒:

現在も脅威にさらされているという、持続的な身体反応です。

  • 睡眠障害:就眠困難、中途覚醒、浅眠
  • 過緊張、警戒心
  • 集中力の低下
  • 過剰な驚きやすさ

2.追加症状

4感情調整の問題:

  • 感情が激しすぎて爆発する
  • 感情が乏しすぎて麻痺したり解離したりする
  • 感情のコントロールや、感情を把握することが難しい

5否定的な自己概念:

  • 自分は何もできない(無力感)、みっともない(恥)、価値がない(無価値観)
  • 自分のせいだ(罪悪感)

6対人関係の困難さ:

  • 他者との距離がわからない
  • 顔色をうかがい、過度に従順になったり迎合したりする
  • 自己主張できない。相談や依頼もできない
  • 連絡先やSNSのアカウントを突然消して、一方的に関係を断つ。リセット症候群

複雑性PTSDは他疾患に診断されやすい

複雑性PTSDは、2018年に『ICD-11』で公表され、2022年1月1日から診断が可能となった、とても新しい疾患です。また、以下も似た症状をもつため、鑑別診断が難しいといわれています。

うつ病、双極症、社交不安症、依存症、強迫症、境界性人格障害、発達障害(ADHD・ASD)

複雑性PTSDの治療

複雑性PTSDの治療で有効なのは、第1にトラウマ焦点化心理療法、第2に薬物療法とされています。

1.薬物療法

1)保険適用薬:

  • パロキセチン、セルトラリン

2)有効性が報告されている薬:

  • 抗うつ薬:ベンラファキシン、デュロキセチン、ミルタザピン
  • 抗精神病薬:オランザピン、クエチアピン、リスペリドン

2.心理療法

1)安全確保のための環境調整

住居や同居家族などが危険なままでは、どんなに優れた治療でも効果は望めません。
安全で安心な居心地のいい環境を用意することが、大前提です。

2)心理教育

「自分に何が起きているのか」を医学的に正しく知ると、「自分は悪くなかった」と理解できて、楽になれます。
「自分のからだは生き延びるために最善を尽くしてくれていた」と、自分に感謝して慈しむこともできるようになります。

3)カウンセリング

特にエビデンスが高いとされている2つをご紹介します。

①認知行動療法

複雑性PTSDの人は、特に「自分に対して過度に否定的」で、「対人関係を過剰に恐れる」思考に陥りがちです。 そのため、それぞれの場面において、トラウマの影響を受けてしまっている思考・感情・反応に焦点を当て、よりよい受けとめ方や考え方ができるようになることを目指して進めていきます。

詳しくは➡認知行動療法のページをご覧ください。➡

②STAIR/NST

児童期虐待を受けた人のための心理療法です。
感情コントロールと対人関係スキルが習得できたのち、トラウマ記憶を段階的に整理していきます。

おわりに

脳・神経系には『可塑性』があります。
私たちは困難を乗り越えて回復する力『レジリエンス』を持っています。

それを信じて、勇気を出して治療を受けてほしいと願っています。